ジャズギター界で独自の存在感を放つアダム・ロジャース。圧倒的なテクニックと、ジャズ、ロック、ファンク、ブルースを自在に横断する音楽性で、多くの音楽ファンを魅了し続けています。
ここでは、〈Alternative Guitar Summit〉主催のジョエル・ハリソンによる貴重なインタビューから、アダム・ロジャースの音楽における流儀と、その豊かな創造の源泉を翻訳にてお届けします。
幼少期の音楽体験から、影響を受けたアーティスト、機材へのこだわり、さらには「Four on Six」での実演まで、普段はなかなか知ることのできない内容が満載。
演奏の背景にあるストーリーを知ることで、ギタリストとしてのヒントや刺激がきっと見つかるはずです。
ぜひ、じっくりと読み進めてみてください。
*本記事は、Alternative Guitar SummitのYouTubeチャンネルで公開されたインタビュー動画を元に、ジョエル・ハリソン氏の許諾を得て日本語に翻訳・編集したものです。
ジャンルを横断する才能
—— ジャズはもちろん、ロックやブルース、ファンクまで幅広いジャンルを自在に操るのが印象的です。その多才さが最も多忙なギタリストの一人である理由だと思います。
共演してきたアーティストは本当に錚々たる顔ぶれで、クリス・ポッター、マイケル・ブレッカー、デイヴ・ビニー、スティーリー・ダン…他にもたくさんいますよね?
アダム: 他にはジョン・パティトゥッチ、ラヴィ・コルトレーン、あとは…すぐには思い出せないけど何人もいるよ。
—— キャリアを支えるスキルと言えば、やはりサイトリーディング(初見演奏)の能力が際立っていますよね。以前、難しい曲の譜面を「予習する?」と渡そうとしたら、「初見で平気だよ」と返されたときは本当に驚きました。
アダム: うーん、そんなこと言ったかなあ(笑)…覚えてないけど、君がそう言うなら、そうだったんだろうね。
—— 収録前に弾いていたファンキーな即興は、Diceに通じるものがありました。このアルバムはジミ・ヘンドリックスへのトリビュートという意識があったのでしょうか?
アダム: トリビュートってほど大げさなものじゃないけどね。ジミからの影響はすごく大きいよ。
—— トリオでのジャズロック的なアプローチが素晴らしかったです。このアルバムで初めてあなたの最高にファンキーな一面を目の当たりにしました。今日のウォーミングアップでもファンキーなフレーズを弾いていましたが、もう一度弾いてもらえますか?
アダム: このギターはアコースティックなジャズで使ってるから、Diceで使ったストラトのファンキーさとはまた違ったものになると思う。ちょっとやってみよう。(03:46〜)

アダム: ジェームス・ブラウンっぽいファンクにはストラトよりも合うね。

アダム:ストラトのミドル・ピックアップで出す音と違って、もっとギブソンらしい太い音だからね。


ルーツを探る:ドラム、ヘンドリックス、そして70’sグルーヴとの出会い
—— 音色もさることながら、その揺るぎないタイム感にはいつも圧倒されます。その感覚は、いつ頃から意識して磨いてこられたのですか?
アダム: いつ頃からだったかな…正確には思い出せないけど、長年の練習と経験、その積み重ねの結果だと思う。
僕が音楽に触れたのは結構早くて、5歳でドラムを叩いてたんだ。本格的に練習していたわけじゃないけど、父親がドラマーでね。家にドラムセットがあったから、自然とスティックを握ってた。
ギターを始めたのは11歳で、きっかけはジミ・ヘンドリックスだった。もちろん、ギターそのものにも惹かれてはいたんだ。家にあったし、当時そりゃあもう、たまらなくカッコいい楽器に見えたからね。でも、ジミの音楽は別格だった。
どのレコードだったかは覚えてないけど、とにかく、彼の音楽が11歳の僕の心を完全に打ちのめした。なんて言うか…ジョン・コルトレーンとかストラヴィンスキーを聴いたときの衝撃に近いかな。音楽そのものを超えた、とてつもない何かが自分の中に流れ込んできて、『この圧倒的な力の正体を知りたい、 これを理解しなきゃ絶対にダメだ!』って、心の底から突き動かされたんだ。
振り返ってみても、そんな体験は人生で数えるほどしかない。強烈で、まさに啓示に近いような出来事だった。
だから、ギターを手にしてからの数年間は、とにかくジミみたいになりたくて、ひたすら練習してた。それしか頭になかったよ。
—— ジミのタイム感、本当に完璧ですよね。
アダム: うん、そうだね。僕のギタリストとしての原点は、まさにそこにあると思う。70年代のニューヨークで育ったけど、当時はレッド・ツェッペリンやPファンク、それにもちろんヘンドリックスをよく聴いてた。
—— 70年代のニューヨークといえば、本物のファンクバンドがあちこちで演奏していましたよね?
アダム:そうだったね。ラジオから流れていた曲もよく覚えていて、6歳のときに聴いた『Theme From Shaft』は忘れられないよ。この曲で初めて聴いたワウワウ・ペダルは本当に強烈だった。
アダム: それから、どういうわけか、カーティス・メイフィールドのSuperflyと、フォー・トップスのKeeper of the Castleが手元にあって、何度も聴いていたよ。
Keeper of the Castleは1972年のロサンゼルス録音で、彼らの初期の作品と比べるとずっと洗練されてるんだ。ストリングスやギターの美しい使い方も含めて、70年代初頭ならではのR&Bサウンドがぎゅっと詰まってる。
それから、テンプテーションズも大好きだったよ。当時はもちろんビートルズにも夢中だったけど、それと同じくらい…いや、もしかするとそれ以上にハマっていたかもしれないな。僕の初期の音楽体験はこんな感じだね。
—— ところで、スライ・ストーンのドキュメンタリーはご覧になりました?
アダム: いや、まだ観てないんだ。
—— そうですか。あのギタープレイは独特で素晴らしいですよね。
アダム: ああ、スライは大好きだよ。彼のファンクは他にはない、まさに“特別なブランド”って感じがするよね。リズムギターなんてたまらなく好きだよ。
『Superfly』の記憶
—— 話を少し戻しますが、最近Superflyを聴き直していて、セカンド・ギタリストがいたことを知りました。
アダム: そうなんだよ、彼の名前は、ええと、ちょっと思い出せないんだけど。僕がいつもグッとくるのは、ああいう感じのリズムギターなんだ。

※カーティス・メイフィールドのセカンド・ギタリストは、Craig McMullen。彼のリズムギターは、Superflyのサウンドにおいて重要な役割を果たしています。
—— カーティス・メイフィールドのギターはオープンF#チューニング(F#–A#–C#–F#–A#–F#)だそうですよ。
アダム: そうなんだ!それは知らなかった。このパートも好きだよ。

アダム: 最近またアナログのLP盤が人気だけど、僕にとってアルバムは、昔から特別な存在なんだ。ちょっとノスタルジックな気分になるというか。
SuperflyのLPジャケットには、映画のシーンがいくつか載っていて。通りを駆けるフレディや、大きな口ひげがトレードマークのロン・オニールも写ってた。映画はR指定で、子どもだった僕にはとても観に行けるようなものじゃなかったから、代わりにレコードをかけながらLPジャケットをじっと眺めては、頭の中で映画のストーリーをあれこれ想像して楽しんでいたんだ。
だから、あの時代の音楽…ソウルやR&Bから自然と湧き出るような、独特なリズム感にものすごく惹かれていた。タイムの刻み方や、あの最高のフィール…言葉ではうまく説明できないんだけど、そこには強烈に引き込まれる”何か”があったんだ。
パワー・トリオ『Dice』:ルーツへの回帰と、トリオが生んだグルーヴ
—— 少し話は飛びますが、2017年にリリースしたアルバム Dice について伺わせてください。このアルバムはアダムさんの音楽ルーツに立ち返っているような印象を受けました。そこに卓越したハーモニーの知識が見事に融合されていますよね。やはり、音楽の源泉がルーツにあるからこそ、これほど心を掴む、強烈な作品になったのではないでしょうか?
アダム: どうもありがとう。確かに、初期の音楽体験は、楽器を弾き始めた頃からずっと自分の中に息づいているものだからね。いつかパワー・トリオという形で何かを表現してみたいと、ずっと思っていたんだ。
そんなとき、確か2007年か2008年頃だったと思うけど、フィマ・エフロンとネイト・スミス、そして僕の3人が、クリス・ポッターのバンド Underground でよく一緒に演奏する機会があってね。
フィマとはLost Tribe(1990年初頭から活動したジャズ・フュージョン・バンド)よりも前からの長い付き合い。ネイトとは、クリスのバンドで数年間一緒に演奏していた。そのバンドは当初、ピアノがクレイグ・テイボーンだったんだけど、クレイグが参加できないときにフィマが代わりに入ってたんだ。
そういう経緯もあって、自然と3人で音を出すことも多くてね。一緒に演奏したときのグルーヴやフィーリングが、具体的にパワー・トリオで何かやりたいと考えるきっかけになったんだと思う。
君もよく知っているように、トリオは本当に特別で、そしてすごくチャレンジングな編成だからね。
トリオの奥深さ
—— とても難しい編成ですよね。
アダム: そうなんだ。特にDiceのようなパワー・トリオは、ごまかしがきかない。正面から勝負しなきゃいけないというか…。
ジャズ・トリオでアルバムを2枚ほど作ったけど、ああいうオープンなスタイルで演奏するのも、十分チャレンジングなんだ。でも、パワー・トリオには、それとはまた違った厳しさがある。
—— ボーカルがいない分、難しさが際立ちますよね。埋めるべきスペース、逆に埋めない方がいいスペースがたくさんあるので。
アダム: その通りだね。それに加えて、自分自身が『うん、これは完成したな』って納得できて、なおかつバンド特有のヴァイブをしっかり保てる…そういう曲を書くのが本当に難しいんだ。
パワー・トリオのために書く曲は、アコースティック・トリオとは全く別のアプローチになるし、カルテットのように他の楽器や対位法的なフレーズを盛り込める編成とは、もう全然違う世界の話になる。
だから、Diceのためにかなりの曲を書いたと思うよ。でも、その大部分は一度リハーサルで音出しして、『うーん、これはちょっと違うな』って感じでボツにしたんだ。 というのも、この3人(ネイトとフィマそして僕)で、ガツンと一体化したパワフルで研ぎ澄まされた演奏をするには、少なくとも曲自体がビシッとハマっていなければならなかったから。
—— その一部を少し聴かせてもらえますか?このギターでは難しいかもしれませんが。
アダム: 全然違うキャラクターだからね(笑)。曲は全部覚えてるんだけど、このギターでどこまであのニュアンスが出せるか…ちょっとやってみるよ。(ここでDice収録の「Elephant」を弾く)
—— やっぱりカッコいいですね!
アダム: このギターで弾くと、すごく不思議な感じがするよ。
—— 「Elephant」の基本的なグルーヴは、たとえばバンド・オブ・ジプシーズの「Power to Love」を彷彿とさせるところがありますよね。でも、そこに変拍子を挟んだり、他のギタリストならまず使わないようなコードを使ったりしていて。
そういった細かな要素は、それだけを取り出しても目立たないかもしれませんが、組み合わさることで、完全にアダム・ロジャースならではのものになっていると感じます。
アダム: 君がそう分析してくれるのは、素直に嬉しいよ。
—— バンド・オブ・ジプシーズのカッコいいエッセンスを感じさせつつも、それが完全に“アダム・ロジャースの音楽”になっている。そして、洗練されたファンキーなアイデアは、少しも気取った感じや、テクニックをひけらかすようなところがなく、それでいて最高にファンキーに響くんですよね。
本能が求める音へ
アダム: Diceの曲を書いていたとき、自分の中で乗り越えるべき基準があってね。それは、『本当に心の底から、直感的に、本能的に演奏できる曲だろうか?』ということだったんだ。
—— すごくよく分かります。本当に素晴らしいフィーリングですから。
アダム: そう言ってもらえると嬉しいよ。Diceのために色々アイデアを練って曲にするんだけど、全部が全部OKになるわけじゃない。実際にバンドで演奏すると、僕自身がその曲と繋がれないと感じることがあってね。うまく説明できないけど、曲と繋がれない、あるいはバンド全体としてしっくりこないと感じたら、その曲はダメなんだ。
ネイトとフィマは本当に素晴らしいミュージシャンで、彼らとなら大抵どんな曲でもカッコよくなる。でも、Diceでは、僕らが本当に心の底からガッチリと繋がれる、特別な種類の曲を探していたんだと思う。
だから、実際にOKになった曲、たとえば「Elephant」を演奏するときは、すごくシンプルなものをプレイしているように感じるんだ。その多くは、ネイトとフィマの力によるところが大きいね。彼らはどんなに複雑なキメのフレーズでも、簡単なことみたいに聴かせちゃう。それが最高に気持ちいいんだよ。
それに、変拍子は彼らにとっては大したハードルじゃないんだ。だから僕は自由にプレイできるし、特にネイトはどんな複雑な展開の中でも必ず、全体を貫く最高のグルーヴを見つけ出してくれる。だから、演奏がバラバラに聞こえたり、ぎこちなくなったりすることは絶対ない。常に一本芯が通ってる感じなんだ。
というのも、Diceの曲は全部、ネイトとフィマと一緒に演奏することを前提に書いたんだ。曲を書いているときから、彼らの音やプレイが具体的に頭の中で鳴っていてね。僕が曲を作るときはいつもそうなんだ。知ってるミュージシャンや、その人のプレイがよく分かっている仲間が演奏してくれるってなると、自然と音楽が生まれてくる。彼らの音が頭の中でインスピレーションをくれるんだよ。
そして、Diceは、それがものすごく明白かつ劇的な形で当てはまった。さっきも言ったけど、僕らは一緒に演奏する機会が本当に多くてね。それで、『この3人のグルーヴは半端じゃない。なんとかしてこの3人でプレイするための最高の音楽を作らなきゃ。彼らの演奏レベル、そして僕ら3人が一緒に音を出したときのケミストリーに見合うような曲を!』って思ったんだよ。
機材へのこだわり:アンプ直とダイナミクス
—— Diceで印象的だったのが、ペダルを使わず、ヴァイブロラックスに直で、オーバードライブもリバーブも加えずピュアな音で演奏していることです。アンプの自然な歪みが本当にカッコよかったです。
アダム: まさにあのサウンドこそが、僕にインスピレーションを与えてくれるんだ。
—— ヘンドリックスがマーシャルを3台も使っていたように、大音量のほうが良いトーンを得やすいと思いますが、アダムさんはそれほど大音量でなくても見事にコントロールしていますよね。
アダム: うーん、どうだろうなあ。ヴァイブロラックスはマーシャルとは全然違う回路だけど、アンプのボリュームを下げていくと、当然だけどその場の音響が大きく変わってくるんだ。特にヘンドリックスがよく使ってたフィードバックのコントロールはね。
“音の画家”と称されるような、あのフィードバックの使い方にはものすごい音量が必要だったけど、小さなアンプでもやり方次第で同じような効果を得られるんだよ。僕のヴァイブロラックスは45ワットで10インチスピーカーが2発。 マーシャルのスーパーベースを3台並べるのとはまるで違うけどね(笑)。
—— そんなストイックなセッティングでやる人は、なかなかいませんよね。
アダム: うん、確かに珍しいやり方かもしれないね。ただ本当にアンプ直の音が好きなんだ。もちろん、好きなペダルもいくつかあるけど、使うのは特殊な音色が欲しいときくらい。それ以外で使うと、アタックのダイレクト感が薄れちゃうんだよね。
僕が持ってるマーシャルだと、フルテンにしてもピッキングを弱くすればそれほど歪まない。それは、パワー管とその回路が、アタックの強さに直接反応してるからなんだよね。だから、強くガツンと弾けば音が爆発するし、優しく弾けばそこまで歪まないんだ。
ペダルの音と比べると、ごまかしがきかない厳しい音なんだけど、だからこそやりがいもある。アコースティック楽器に近い感覚すらあるよ。それに、パワー管の自然な歪みだと、ペダルで歪ませるよりもピックのアタックそのものが、よりクリアに聞こえるんだよ。
—— 面白いですね。確かにアラン・ホールズワースのピックアタックはあまり聞こえないですよね。
アダム: うん、僕の音とは違うけど、彼のサウンドは本当に美しいよね。心から追い求めた音だったんだと思う。初期の、まだ機材がシンプルで、もっと生々しい音だった頃の演奏も素晴らしいよ。
エディ・ヴァン・ヘイレン再発見
アダム: ハイゲイン・ギタリストで、現代のスタイルを発明した人といえば、やっぱりエディ・ヴァン・ヘイレンじゃないかな。初期のサウンドなんて、信じられないくらいダイナミックなんだ。あれだけ歪んでるのに、タッチがすべてしっかり聴こえる。もちろん彼が卓越したギタリストだったのは大前提だけど、あの音は、彼の指と発想力から生まれたんだと思う。
だって古いマーシャルをボリューム10にしてガンガン鳴らしてたんだよ。初期のレコードは全部そんな風に録音されてて、だからこそ、あの唸るような、まるで獣が吠えるような強烈なアタックが出てくる。あれが彼の個性そのものだったし、大きな魅力だったんだよね。
—— 彼がいかに素晴らしいリズムプレイヤーであったかということも、アタックのダイレクトさに繋がりますよね。
アダム: ほんとその通りだね。彼のプレイは、もちろんレガートとかテクニカルな面も凄いんだけど、僕が一番グッとくるのは、リフやバッキングのパートを弾くときの、あのタイムへの食い込み方なんだ。グルーヴがとんでもないレベルだったよね。
—— ヴァン・ヘイレンの曲をコピーしていた時期もあったんですか?
アダム: いや、全然。リアルタイムでは見逃してたんだよ。
—— ああ、私もなんです。
アダム: ヴァン・ヘイレンの本当の凄さに気づいたのは、もっとずっと後になってから。もちろんラジオで曲は耳にしてたし、「いいな」とは思ってたんだけど、深く掘り下げることはなかった。でも、ここ20年くらいで完全にハマって、大好きになったんだ。あの音楽が持つ独特のスピリットとか、どこかユーモラスな感じもいいよね。
—— よく分かります。
アダム: すごくLAっぽいんだけど、それでいて骨太でワイルドな部分もある。たしか78年のナイアガラフォールズでのライブ映像かな、とんでもないパフォーマンスがあってね。ライブであれだけのクオリティを出せるって、信じられなかったよ。彼のプレイは本当にリアルだったし、バンドもまさに本物だった。数えきれないほどのギグをこなしてきた中で、常に「俺たちは俺たちのやりたいようにやるぜ!」っていう姿勢があって、それがまた面白くて最高だった。
僕はジミ、ツェッペリン、それにPファンクが音楽のルーツ。その後、ジャズを本格的に学び始めてからは、いわゆるポップスはほとんど聴かなくなったんだ。だから、80年代に何が流行ってたかなんて、当時はあまりピンときてなかったんだよね。
ジャズを学ぶ:師との出会い
—— ジョン・スコフィールドがまだニューヨークで個人レッスンをしていた頃に、師事されたと伺いました。
アダム: そうなんだ。かなりの回数レッスンを受けたよ。ちょうど彼がマイルス・デイヴィスと演奏を始める直前の頃だった。
でもある日突然「マイルスとやることになったから、もうレッスンはできないんだ」って言われて、「うわあ、マジかよ!」って思ったのを覚えてる。本当にびっくりしたね。
—— レッスンはどんな内容だったんですか?
アダム: 僕の記憶では、ただただ一緒に演奏してたって感じかな。だから当時、一緒にスタンダードをセッションできるくらいには、なんとか弾けてたんだと思う。
ジョンにレッスンを受ける前にも、何人かの先生に習っていて、ハワード・コリンズとバリー・ガルブレイスっていう、素晴らしいギタリストたちに師事していたよ。
—— バリーに師事していたんですね!道理で譜面に強いわけです。
アダム: まあね…でも正直言うと、バリーにはもう少し後に習いたかったなって思ってる。当時のレッスンをあまり覚えてなくてね。
彼とハワード、それからチャック・ウェイン、アラン・ハンロンが、みんな同じ場所で教えてたんだ。ブロードウェイの53丁目だったかな。タバコの煙が立ちこめてて、ちょっと薄汚れた感じのスタジオでさ。まさに”ジャズギタリストの巣窟”って感じだった。覚えてるのは、みんな揃ってカーディガンみたいなセーターを着てたってことくらいかな(笑)。
—— それは70年代半ば頃ですか?
アダム: いや、80年代の初めだったと思う。最初にバリーに師事して、そのあと、ジャズのことをまだ何も知らないままハワードに師事して、それからまたバリーのもとに戻って…って感じだったかな。
それと、子どもの頃に父親が住んでたロサンゼルスでも、すごく良い先生に出会ったよ。GIT(現Musicians Institute) で教えてたトニー・バルソって人なんだけど、彼はパット・マルティーノにすごく影響を受けててね。確か、パットが脳の病気で大変な時期にGITで教えてたと思うんだけど、トニーは本当に熱心なパットの信者だった。
彼のおかげで、モードとか代理コードとか、ジャズ理論の基礎を客観的に、きっちりと体系的に学べた。そこから先は、自分でどんどん掘り下げていけるようになったんだ。
—— クラシックギターの修士号も取ろうとしていませんでしたか?
アダム: それはもう少し後の話で、音楽学校に通ってたときだよ。修士号じゃなくて、学士号だったけど、クラシックギターをしっかり学んだんだ。
読譜力の重要性
—— ということは、ジャズは主に個人レッスンや、レコードを聴き込むことで学んだんですね。
アダム: そうだね、個人レッスンもあったけど、ほとんどはレコードから学んだよ。そして、譜面が読めるようになったことが本当に大きかった。
僕は昔から、まあ…良く言えば意志が強い、悪く言えばちょっと頑固なところがあって(苦笑)。学生時代もそうだったけど、誰かに「これを学べ」って言われても、それが自分にとって本当に必要だって納得できないと、全く身が入らなかったんだ。
—— すごくよく分かります。僕もそういうタイプで、大学でクラシックのハーモニーをやっておけばよかったって、30代半ばになってから全部やり直して「なんであのときやらなかったんだ、俺は!」って後悔しましたから。
アダム: (笑)まあ、人間ってそんなもんだよね。僕も、ハワード・コリンズに習ってた頃は本当にひどかったよ。
ハワードもバリー・ガルブレイスと同じく、信じられないくらい忙しいスタジオギタリストだった。ビートルズやローリング・ストーンズが出てくる前は、彼らのようなジャズギタリストがあらゆるレコードで弾いてたからね。
—— CM曲なんかも、ですよね。
アダム: まさにそう。ハワードはどんな譜面でも初見で完璧に弾ける人だった。僕が彼に習い始めた頃なんて、ジャズのことは何も知らなかったし、譜面もまったく読めなかった。子どもの頃にクラシックピアノはやってたけど、ギターのネックのどこに何の音があるのかさえ分かってなかった。完全なゼロからのスタートだったんだ。
—— そうだったんですね。
アダム: そのせいで、彼は僕に対して本当に厳しくて、ほとんど虐待レベルだったよ(笑)。「君は譜面も読めないし、あれもダメ、これもダメ」って言われ続けて…。当時の僕は、付点四分音符すらまともに弾けなかったんだから、我ながら情けないよ。
その後、西海岸でトニー・バルソからジャズを習い始めたんだ。そのとき、「もっとたくさんの曲を覚えるには、譜面が読めなきゃダメだ」って思ったんだよね。そしたら不思議なもので、一週間半後には、初歩的な譜面が読めるようになってたんだ。
つまり、必要性を感じたら人って一気に成長するんだと思う。心の底から「これが必要だ」って思えたときにね。
—— とても興味深いです。
チャーリー・パーカーと『オムニブック』
アダム: それでね、僕が子どもの頃にストレートアヘッドなジャズに興味を持ったきっかけは、アルトサックスを吹いてた友達だったんだ。
彼ができたのは、『オムニブック』を見ながらチャーリー・パーカーのソロを吹くことだけ。即興だってことすら、ちゃんと理解してなかったかもしれない。クラシック音楽みたいな扱いだったんだ。誰かと一緒に演奏するときも、知ってるパーカーのソロをキーを合わせてそのまま吹く、みたいな感じで。
でも、その彼が僕にサヴォイとかダイアル・レーベルの音源を聴かせてくれて、「おい、これ聴いてみろよ!」って言いながら、パーカーのソロをレコードに合わせて吹いてみせるんだ。
当時の僕は、ウェザー・リポートとかヘッドハンターズ、それにマハヴィシュヌ・オーケストラ、あとは70年代初頭のマイルス・デイヴィスにどっぷりハマってたから、パーカーの音楽を聴いたとき「うわ、これは一体何なんだ!?」って、衝撃を受けてね。
それで、「ジャズって何なんだ?」って真剣に考えるようになって、『オムニブック』を手に入れて、譜面を追いながらパーカーのソロを学んでいったんだ。
アダム: パーカーのソロは『オムニブック』で、そしてウェス・モンゴメリーのソロはレコードから耳コピ。これが僕の学習テンプレート、言うなれば“ロゼッタストーン”みたいなもんだったね。そして僕のジャズの基礎になったんだと思う。あとはもう、音楽を聴きまくる毎日だった。
レコード収集の思い出
アダム: 当時はインターネットなんてなかったし、CDすらなかった時代。だからレコード一枚手に入れるっていうのは、今では考えられないくらい大きな出来事だったんだ。
まずレコード屋に行く。でもって、それを買うお金が必要だろ? そんなに裕福じゃなかったから、毎週もらえるお小遣いをやりくりして、なんとか一枚レコードを買う、みたいな生活だった。
ピンク・フロイドの『アニマルズ』が出たときのことは、今でもよく覚えてるよ。
アダム: それまで持っていたのは『狂気』か『炎〜あなたがここにいてほしい』のどっちかだったと思う。で、新作が出たって聞いて、「どうしよう、買うべきか? もし気に入らなかったら最悪だぞ」って、本気で悩んだんだ。
だって、サム・グッディ(当時の大手レコード店)で確か6ドルくらいしたんだけど、僕の週のお小遣いが10ドルくらいだったからね。それで意を決して買って帰って、震える手でターンテーブルに針を落とすわけさ。「頼む、良いアルバムであってくれ!」って祈りながら。一度針を落としちゃったらもう返品できないし、当時は試聴できる場所もほとんどなかったからね。
当時僕が持っていたのは、マイルス・デイヴィスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』、50年代のクインテットによる『マイルストーンズ』、それからコルトレーンの『ジャイアント・ステップス』。
アダム: それと、友達からほとんど“借りパク”みたいな感じで手に入れたウェスのレコードもあってね、片面が『スモーキン・アット・ザ・ハーフ・ノート』で、もう片面がジョニー・グリフィンと壷(バークレイの珈琲ハウス)でやった『フル・ハウス』っていうライブ盤。2枚が1枚に収まったやつだった。
アダム: あと、コルトレーンの『アセンション』も買ったんだけど、あれはもう、わけが分からなくてさ(笑)。何度も聴いたけど、一体何が起こってるのかさっぱり理解できなかった。でも、最終的にはなんとか自分なりに消化して好きになったと思うけど。
アダム: とにかく、そんな限られたレコードを、毎日繰り返し聴いて、一緒に演奏したり、パーカーのソロやウェスのフレーズを練習したりしてた。それが僕のジャズの学び方だったんだ。ニューヨークにいたから、かなり若いうちから実際の現場で演奏する機会にも恵まれてね。だから、本物の音を生で聴くこともできたんだ。
実演:「Four on Six」でのソロ構築
—— 普段、どんなふうに演奏されているのか「Four on Six」を例に見せてもらえますか。
アダム: もちろん。
アドリブ例(36:08〜)









—— 間近で聴けるなんて、最高です。
Adam:ウェスは確かこのあとオクターブ奏法をしてるよね。こんな感じで。
オクターブ奏法例(38:51〜)



ソロをドライブさせる力
—— ずっと聞きたかったことがあるんです。これは18歳の頃に抱いていた、すごく切実な疑問のひとつなんですが…ソロで“推進力”とか“前へ進む力”って、一体どうやって作り出すんでしょう?
ウェスを聴いていると、彼がソロをどう組み立てているか――たとえば、コードソロやオクターブ奏法にどうやって展開していくか――といった構造は、分析すればある程度パターンが見えてくるんです。でも、彼の演奏からはそれ以上の、何かこう、言葉では言い表せない、とてつもないエネルギーが伝わってくるんです。
アダム: 本当にそうだね。
—— ものすごくリラックスしていて、ゆったりとした雰囲気なのに、まるで機関車みたいに強烈なエネルギーがある。これを説明するのがとても難しくて。速弾きに頼らずに、ソロ全体のエネルギーをどうやって構築していくか。つまり、ソロにちゃんと起承転結のある“物語”を持たせるには、どうしたらいいでしょう?
アダム: うーん…どう答えたらいいか、正直よく分からないんだ。頭で理論的に理解して、それを説明できるかどうかも自信がない。
でも、ウェスについて言えば、彼のソロって、どれもある程度似たような構造を持っているのは確かだよね。シングルノートから始めて、次にオクターブ奏法、そしてコードソロへと展開していく“お決まり”のパターン。それでも、僕はまったく気にならないんだ。なぜなら、彼のソロには毎回、明確な“段階”があって、そこに自然な建築的構造――つまり、聴き手を引き込んでいくための盛り上がり――が、しっかりと用意されているからなんだ。
そう考えると、ソロ全体を通して、明確な構造を持ったアイデアを、まるで糸を紡ぐように展開できればいいんだと思う。ひとつのアイデアをある程度じっくりと発展させて、それが次の新しいアイデアへと自然につながっていく。そして、その新しいアイデアもさらに発展していく。これって、昔からある“テーマと変奏”っていう、一番古典的な手法じゃないかな。ベートーヴェンやパレストリーナの時代から、みんながやってきたことだよね。
それから、ウェスにはどうしても言葉で説明しきれない、特別な資質があった。それは……
—— 独特のリズムの取り方でしょうか。あれが信じられないくらいの感情のうねりを、ずっと持続させているような。
アダム: そうなんだよ!常に聴き手を惹きつけて離さない、あの独特のドライブ感。あれが何なのか、僕にもはっきりとは分からないんだ。でも、あれこそが、ギタリストとしてのウェスの唯一無二の個性だったんだと思う。なんというか……偉大なアーティストが必ず持っている、その人自身と切り離せない“何か”。ウェスの場合、それが音楽に完全に表れていたんじゃないかな。
フレーズを発展させるアイデア
—— まさに、”その人自身が音楽になっている”ということですね。アダムさんも、そういうエネルギーをソロで生み出す卓越した力がありますよね。Diceでの演奏を思い出すと、いくつか特徴があって…もちろん、言葉で分析すると野暮だってことは重々承知しているんですが。
たとえば、タイム感がしっかりしているからこそ可能な“遊び”。ダブルタイムに切り替えたり、シンコペーションを多用して独特の緊張感を生み出したりしますよね。そしてスケールをスーパーインポーズして新たなドラマを生み出している。
そのあたり、少し実演していただけますか?たとえば、最初はウェスふうのフレーズから始めて、徐々にシンコペーションを加えてタイムをずらすような感じにしていく。そして、その後にハーモニーのスーパーインポジションを見せていただけると嬉しいです。
アダム: オーケー、できる限りやってみるよ。
Gmでの実演(45:26〜)






—— 今のは、どういうことをやっていたんですか?
アダム: いくつか試したけど、最初にやったのは、シンプルなフレーズを元にして、それをリズムの中でいろんな場所にずらしていく、いわゆる”ディスプレイスメント”っていう手法だね。
これはチャーリー・パーカーから学んだことなんだ。彼はこういうのを本当によく使っていた。当時、マックス・ローチやディジー・ガレスピーみたいな天才的なミュージシャンを除けば、一緒に演奏していた他のメンバーは、きっと混乱してたんじゃないかな(笑)。
リズムディスプレイスメントを使って発展させていくっていうのは、すごく面白いんだ。もう一回やってみようか。
リズムディスプレイスメント



—— まるでストラヴィンスキーの音楽みたいですね。
アダム: そう、縦横無尽に。こんなふうに、ひとつのフレーズを自由にあちこちに動かすんだ。ディスプレイスメントの面白いところは、シンプルなアイデアでも、リズムの扱い方次第で無限に遊べるところにあると思う。
それから、リズム的にずらすんじゃなくて、同じフレーズを何度も繰り返しながら、それを意図的に後ノリにしたり、逆に前ノリでグッと食い込ませたりして、時間的な揺らぎを作り出す方法もある。
ソニー・ロリンズやデクスター・ゴードンがよくやる手法で、時間と戯れるような独特のアプローチで、同じフレーズをわざとズラして吹いたりする感じ。あれがまた、すごく魅力的なんだ。ちょっと弾いてみよう。
ノリのディスプレイスメント



アダム: …こんなふうに、ビートの後ろで弾いたり、前に食い込ませたりする。これはリズムのディスプレイスメントとはまた違って、もっと感覚的なアプローチだけど、僕はこれが大好きなんだ。
結局のところ、僕が使っているあらゆるテクニックは、突き詰めるとすべて“テンション(緊張)とリゾリューション(解決)”を生み出すためにあるんだよ。それがリズム的なものにせよ、ハーモニー的なものにせよね。
これは音楽の世界では最も古くからある基本的な手法のひとつなんだ。もちろん、僕のアプローチが絶対的に正しいなんて言うつもりはまったくないよ。でも、少なくとも僕にとっては、テンションをどう生み出して、どうリリース(緩和)するか──それを考えることが演奏の核になってる。
たとえばディスプレイスメントの場合だと…

アダム: こうやって弾いていると、どこかの時点で必ず“解決”が訪れるだろ? それがちょっと変わった場所かもしれないけど、最終的には必ずダウンビートに着地して、そこからまた音楽が続いていくんだ。
こんなふうに、常にテンションとリリースを作り出しているんだ。それは、音楽理論で言うドミナントからトニックへ(V-I)というコード進行が持つ緊張と解決と、本質的には同じことなんだよ。
僕がよくやるポリハーモニック(複数の調性を同時に重ねる手法)も、この考えに基づいている。たとえば「Four on Six」や、あるキーのヴァンプの上でソロを弾くとき、意図的に他のハーモニーを重ねて、それを最終的に解決させているんだ。ただこれを単純な法則みたいに言うつもりはないんだけど。
—— 単純に見える法則にこそ、実は使いこなすのが難しいものですよね。
アダム: その通りだね。そうやっていろいろなアイデアが積み重なって、大きな全体像が出てくるんだ。
もし誰かがシェンカー分析(楽曲の構造を分析する音楽理論)で読み解こうとしたら、音楽の根本的な法則が見えるはずだよ。そしてその中には、僕のやり方もあれば、他の誰かによるまったく異なる方法もある──無数のやり方が共存しているんだ。
コルトレーン『アフリカ』の衝撃
アダム: 僕がハーモニーについてやっていることは、本当にいろいろな要素から影響を受けているんだけど、特に印象深くて、今でもよく思い出す体験がある。それは、コルトレーンのアルバム『アフリカ・ブラス』に入っている『アフリカ』という曲を初めて聴いた時のことだ。
メロディが入ってくるところ…バックはEフリジアンなんだけど、コルトレーンのメロディはまるでDマイナーキーで演奏されているように聴こえるんだ。そして、彼がバックと同じEフリジアンで演奏を始めた瞬間、まるで巨大な扉が開いて、そこから膨大な量の水が一気に流れ出すような、とてつもない感覚に襲われた。その衝撃はすごかったよ。「うわっ、彼は別のキーを重ねている! Eフリジアンの響きの中に、確かにDマイナーのカラーが存在して、まるで別の世界で演奏しているみたいだ!」ってね。
この体験は、昔習っていた先生に言われた言葉を思い出させたんだ。
「いいかい、モードを使うとき、たとえばCメジャーコードの上でEフリジアンを弾くとするだろ? そのとき君は、“別のキーをスーパーインポーズしている”ってことを、聴いている人に感じさせなきゃいけないんだ。」
僕は思わず「え? でも使ってる音は同じじゃないですか?」って聞き返したんだけど、「だから君の演奏で感じさせるんだ!」って。
先生がCメジャーコードを弾いて、僕にEフリジアンでアドリブさせる。もし僕の演奏がCメジャーに聞こえてしまったら、そこでストップがかかる。でもあるとき、僕がEフリジアンらしい響きで、彼に「これはスーパーインポーズだ」と感じさせることができた瞬間があったんだ。そのとき、彼が言ったよ。「そう、それだよ!それこそが私が言ってることだ!」ってね。
—— それはとても興味深い話ですね。
アダム: 僕がハーモニーでやっていることは、この考え方に基づいているんだ。時には、元のキーからすごく離れたキーを意識することもあよ。
あの『アフリカ』が僕にとってたまらなく魅力的なのは、彼がDマイナーのb5を吹くとき、まるでDマイナーの世界に完全に浸かっているように感じるとこなんだ。
バックは、エリック・ドルフィーの素晴らしいアレンジによって、ビッグバンドみたいなふわっとした響きを保っていて、コルトレーンがEフリジアンで吹き始めた瞬間…今でも思い出すたび鳥肌が立つよ。とにかくものすごくパワフルなんだ。まるで何かが内側からギュッと引き寄せられて、それが一気にパッと開放されるような感覚。あれこそが、テンションとリリースそのものなんだ。これはハーモニーだけじゃなくて、リズムの面でもいろんなアプローチで実現できるんだよ。
ウェスに学ぶ音楽の美
—— 確かに、それを実現する方法は人それぞれですよね。多用する人もいれば、そうでない人もいる。偉大な即興演奏家の多くは、そういった手法を持っていて、それが彼らを“次の次元”へと導いているように思います。
アダム: うん、その通りだと思う。君が最初に投げかけた「ソロの中でどうやって推進力を生み出すか」っていう問いに戻るとね…。僕がウェスの演奏に不可欠だと思っている要素のすべては、僕自身や他の誰かが言葉で理論的に説明できるものじゃないんだ。あれはもう、完全に彼の個性の一部なんだよね。
僕の記憶にずっと残っている、ある演奏があってね。それはポリトーナルとかクロマティックといった難しい理論ではなくて、本当に信じられないくらい美しい“瞬間”なんだ。たしかキャノンボール・アダレイの『ユニット7』でのウェスのソロだったと思う。
アダム: 彼が IIn7-V7 上で素晴らしいフレーズをいくつも弾いて、Iコードに解決した瞬間、驚くほど美しくて、喜びに満ちたメロディックなラインを奏でるんだ。それまでのフレーズが、極端にクロマティックだったわけでもないんだけど…何かをずっと溜めていて、それが一気に開放されたような感覚なんだ。まるで厚い雲がパッと晴れて、太陽の光が差し込んでくるみたいな…。本当に、音楽史に残る最も美しい瞬間のひとつだと思うよ。
Part2へつづく…
Alternative Guitar Summit チャンネル
今回の貴重なインタビューはAlternative Guitar SummitのYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/@alternativeguitarsummit)で公開されています。
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