Dance Of The InfidelsはBud Powellバド パウエル作曲。1956年発売の12" LP「The Amazing Bud Powell」に収録されています(録音は1949年)。

コード進行は以下の通り

Dance Of The Infidelsのコード進行

問題となるのは2小節目。巷に出回っている楽譜は2小節目がBbm7-Eb7になっています。このBbm7-Eb7がどこから来たのか探ってみました。

原曲はブルースのリハモ

Dance Of The Infidelsはブルース進行のリハモで出来ています。

Fブルースのコード進行

Fブルースのコード進行

2、5-6小節目をII-V化。4、10小節目を裏コードに。8小節目を半音上からのアプローチにリハモします。

Fブルースのリハモアイデア1

裏コード化した4、10小節目と、半音上からアプローチの8小節目をII-V化。7小節目はAbm7へ半音上からのアプローチにリハモします。

Fブルースのリハモアイデア2

最後に3小節目にF#-7に対する半音上からのアプローチとF/A=Am7のリハモを入れてDance Of The Infidelsのコード進行が完成します。

Fブルースのリハモアイデア3

Bbm7-Eb7は3小節目へのアプローチ

2小節目は3小節目のAm7に対するアプローチです。まずは半音上のアプローチでBbm7に。

Am7へ半音上からアプローチ

これをII-V化します。

2小節目を半音上からのアプローチにリハモすると、Bbm7-Eb7が出てきます。

みんな何使ってる?

Dance Of The Infidelsを録音しているアーティストを検索できる限り調べ、2小節目を何のコードで弾いているか確認してみました。

原曲通りFm7-Bb7

Wade Leggeウェイド・レグが参加したDizzy Gillespieディジー ガレスピーのアルバム「Dizzy Digs Paris」1953年録音

René Urtregerルネ ユルトルジェのアルバム「Joue Bud Powell」1955年発売

Hank Mobleyハンク モブレーのバルバム「Hank」1957年発売

Art Blakeyアート ブレイキーのアルバム「Paris Jam Session」1959年録音

Charlie Hadenチャーリー ヘイデンのアルバム「Haunted Heart」1991年発売

Steve Grossmanアルバム「Do it」1991年発売

Tim Mayerティム メイヤーのアルバム「Resilience」2011年発売

Keith Jarrettキース ジャレットCharlie Hadenチャーリー ヘイデンのデュオアルバム「Last Dance」2014年発売

Brian Charetteブライアン・シャレットのアルバム「Backup」2017年発売

ベースのみBb-Eb

コンピングはFm7-Bb7のままベースだけBb-Ebを弾いているバージョンです。これはリハモではなく、スーパーインポーズと呼ばれる手法です。

George Wallingtonジョージ ウォーリントンのアルバム「Jazz At Hotchkiss」1957年発売

Rich Perryリッチ ペリーのアルバム「Organique」2015年発売

Francesco Ciniglioのアルバム「Wood」2015年発売

Bbm7-Eb7は誰も弾いていない

ここまで検証して、Bbm7-Eb7で弾いている音源は見つけられませんでした、どこからともなくBbm7-Eb7のリードシートが出回ってしまったために起こった悲劇なのかもしれません。

ではバックが仮にBbm7-Eb7を演奏したとして、その上でFm7-Bb7を想定したらどんな響きになるのか検証してみました。

Fm7-Bb7リックを使って検証

原曲通りのFm7-Bb7、スーパーインポーズしたBbm7-Eb7、ベースがBb-Eb、それぞれどんな響きになるかの実験です。

基本のリック

Fm7-Bb7リックを使った演奏アイデア

Bbm7-Eb7で使った例

同じリックをBbm7-Eb7で使った例

ベースがBb-Ebを弾いた例

ベースがBb-Ebを弾いた例

どれも違和感なく聴こえるんです。なぜなら2小節目の役割がFm7-Bb7、Bbm7-Eb7どちらも次のAm7へ行くためのアプローチだからです。

ジャムセッションでベーシストがBb-Ebを弾いていても、Fm7-Bb7を想定して弾けばOK。またピアニストがBbm7-Eb7を弾いていても、それはスーパーインポーズしているという解釈になるので、こちらもFm7-Bb7を弾いていればOKということになります。

逆に、Fm7-Bb7のところあえてBbm7-Eb7を弾くのもありです。

ではBbm7-Eb7を想定して演奏するとどんな響きになるでしょうか。

Bbm7-Eb7リックを使った例

Bbm7-Eb7リックを使った演奏例

Fm7-Bb7で弾いた例

同じリックをFm7-Bb7で弾いた例

ベースがBb-Ebを弾いた場合

ベースがBb-Ebを弾いてBbm7-Eb7リックを使った楽譜

このように、どちらを想定したとしても違和感なく演奏できるのです。ちなみに私はバックがBbm7-Eb7でも原曲通りFm7-Bb7を弾く派です。

度数の検証

FドリアンとBbリディアンb7が、それぞれのコードで何度の音になっているか調べてみましょう。

FドリアンとBbリディアンb7の度数

Bbm7-Eb7から見た度数

Fドリアン、Bbリディアンb7をBbm7--Eb7で使った時の度数

Eb7に7thの音があるだけでほとんどアウトする音が入っていません。つまりバックがBbm7、Eb7だったとしてもFm7-Bb7でフレージングしてぶつかることはないのです。Eb7で7thの音(D音)を伸ばさない限り。

逆にBbm7-Eb7を想定して、それぞれBbドリアンとEbリディアンb7を使ったらどうなるでしょう。

Bbm7でBbドリアン、Eb7でEbリディアンb7を使った時の度数

これをFm7-Bb7から見た度数

Fm7でBbドリアン、Bb7でEbリディアンb7を使った時の度数

Fm7ではb13th、Bb7では7thと#9thがアウトする音になります。

Fm7-Bb7で弾くのがおすすめ

これまでの検証結果から、Dance Of The Infidelsの2小節目はFm7-Bb7で演奏。少しアウト感を出したいならBbm7-Eb7を想定して弾くのもあり、となりました。

みなさんは2小節目どちらのコード進行で演奏していますか?

*