ジャズフレーズ

ii-v-iで使える!ウェスモンゴメリーリックの分析とアレンジ法

ジャズギターのアドリブで必ずと言っていいほど登場するii-V-I(ツーファイブワン)進行。今回は、キーBbメジャーのii-V-I、「Cm7 – F7 – BbMa7」で、ウェス・モンゴメリーが『West Coast Blues』で弾いたリックを紹介します。

ウェスモンゴメリーのCm7-F7-BbMa7リック楽譜

リック徹底分解:ターゲットノートとアプローチノートで見るウェスの技法

リックは、一体どのように組み立てられているのでしょうか?ここではリックの核となるターゲットノートと、そこへ巧みに導くアプローチノートという視点から、このリックを徹底的に分解し、ウェス・モンゴメリー流のフレーズ構築の秘密に迫ります。

ターゲットノートの特定:リックの骨格を見抜く

各コードの響きを決定づけ、リックの骨格をなしている音がターゲットノート(1、3拍目)です。まずは各コードのターゲットノートを抜き出してみましょう。

ウェス・モンゴメリーのCm7-F7-BbMa7リックのターゲットノート楽譜

Cm7のターゲットノート: 1拍目にテンションの9th、3拍目にマイナーの響きを決定づけるコードトーンのb3rdを使っています。
F7のターゲットノート: ドミナントのキャラクターを示すb7th、そして緊張感を高めるオルタードテンションのb13thです。
BbMa7のターゲットノート(解決音): コードトーンの5thに解決しています。

これらのターゲットノートを繋ぐだけでも、リックの基本的な骨格が見えてきます。まずはこれを覚え込みましょう。

アプローチノートの妙技:ターゲットノートを輝かせる

次に、ターゲットノートに対して、どのようなアプローチノートが使われているかを見ていきましょう。アプローチノートは、ターゲットノートをより印象的に、そしてスムーズに導くための重要な役割を持っています。

このリックでは、2拍目や4拍目、そして拍のウラの音がアプローチノートになっています。まずは2、4拍目の音を追加してみましょう。

ウェス・モンゴメリーのCm7-F7-BbMa7リックのターゲットノートに2、4拍を追加した楽譜

Cm7のアプローチノート: 3拍目のb3rdへはアルペジオでアプローチ。F7の1拍目へは半音下からアプローチ。
F7へのアプローチノート: 3拍目のb13thへは同じくオルタードテンションのb9thでアプローチ。BbMa7へはオルタードテンションの#9thでアプローチ。

ここに裏拍の音を加えるとリックが完成します。どんなアプローチが使われているか見ていきましょう。

ウェス・モンゴメリーのCm7-F7-BbMa7リックのアプローチ解説楽譜

Cm7のアプローチノート: 半音下からのアプローチとコードトーンのアルペジオ。
F7へのアプローチノート: 半音下+半音上の挟み込みアプローチと半音上からのアプローチ

ウェスは、こうした多彩なアプローチノートを自在に操ることで、ターゲットノートにジャズ特有の色彩感、そして歌心を吹き込んでいたのです。

リック作成プロセス

この分析を踏まえ、リックを作るときのプロセスをまとめました。

  1. コード進行と響きのイメージ: 対象となるコード進行(今回はCm7-F7-BbMa7)の響きと、そこで表現したいフィーリング(ブルージー、メロディック、リズミカルなど)を明確にイメージする。
  2. ターゲットノートの設定: 各コードで効果的に響くコードトーンやテンションノートを1、3拍目に置き、大まかなメロディラインの骨格を作る。
  3. アプローチノートとリズムによる装飾: ターゲットノートに対して、スケールやアルペジオ、クロマチックなどを使ったアプローチノートを加え、メロディを滑らかにしたり、緊張感を与えたりする。同時に、3連符やシンコペーションなど、リズムパターンを乗せてフレーズに生命を吹き込む。
  4. 全体の流れと歌心の追求: フレーズ全体が不自然なく流れ、あたかも歌っているかのような「歌心」が生まれるように、アーティキュレーションを加える。

このプロセスは、既存のリックを分析するときや、オリジナルのリックを作り出すときの指針となるはずです。

あなただけのウェス風リックを!簡単アレンジ術

ウェスのリックをマスターしたら、次はそのエッセンスを活かしつつ、あなた自身の個性を加えたオリジナルリックへと発展させてみましょう。

方法はとても簡単。アプローチノートを変えるだけです。ここでは元のリックのアプローチノートを少しだけ変えた2つの例を紹介します。

半音アプローチを逆方向に

元のリックで使われていた半音下からのアプローチを、半音上からのアプローチに変えました。たったこれだけの変更でも、元のリックとはまた違った、新たな魅力やフレーズの表情が生まれます。

クロマチックとアルペジオを増やす

  • Cm7の3拍目のターゲットノートであるb3rdに対してクロマチックで挟み込むアプローチを追加
  • 3連符のアルペジオ部分に11thを追加
  • F7の1拍目ウラを4弦10Fに変更し、音程差のある響きに

このように、元のリックのターゲットノートは変えず、アプローチノートを少し変えるだけで、オリジナルのリックになります。元のリックが持っていたカッコ良さは失われない、おすすめのアレンジ方法です。

大切なのは、元となるリックのターゲットノートとアプローチノートを理解し、自由にアイデアを試し、楽しむことです。ここで紹介したヒントを元に、あなただけのオリジナルなウェス風リック作りに挑戦してみてください!

ウェスらしさを生むフレージングのポイント

このリックを通して見えてくるウェス・モンゴメリーらしさを2つにまとめました。これを意識することで、ウェスのような魅力的なリックを生み出すヒントになるはずです。

  • コードトーンを核としたライン:
    ウェスのソロは、難解なスケールを多用するというよりも、各コードのコードトーンを的確に捉え、それらを滑らかに繋ぐことを基本としています。このリックも、その手法がよくあらわれています。
  • 歌心あるキャッチーなライン:
    テクニックに走るのではなく、まるで歌を歌うかのように自然で、耳に残るメロディラインを紡ぎ出すのがウェスの真骨頂です。このリックも、キャッチーでメロディックなラインの重要性を教えてくれます。


このリックを練習する際は、単に音符を追うだけでなく、この「ウェスらしさ」――コードの響きを大切にすること、そしてメロディを歌わせること――を意識することで、より深く理解できるはずです。ぜひ、繰り返し弾き込み自分のものにしてみてください。

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