ジャズのセッションに参加したい、好きなジャズの曲を演奏してみたい。そんなときこそ、リードシート(メロディとコードが書かれた楽譜)は強力な味方です。
リードシートが読めれば、曲の構造を理解し、アドリブ演奏の手がかりを得ることもできます。
ここでは、楽譜初心者の方がジャズのリードシートをスムーズに読めるようになるための基礎知識を、図や譜例を交えながら分かりやすく解説します。
リードシートで出てくる楽譜記号と名称

どれも知っておくと便利な用語なので、ぜひ覚えて活用してみてください。
楽譜のキホン
楽譜を読む上で最初に押さえるべきは、音の高さやそれを書き表すための基本的なルールです。これらを理解することが、リードシートをスムーズに読み解くための重要な土台となります。
音名
音名は、それぞれの音の高さにつけられた名称で、全世界共通です。ジャズの楽譜(リードシート)ではコードネームに英語の音名(C、D、Eなど)が用いられるため、これに慣れておくといいでしょう。
以下に、英語、イタリア語、日本語の音名の対応を示します。
英語 | C | D | E | F | G | A | B | C |
イタリア語 | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ド |
日本語 | ハ | ニ | ホ | ヘ | ト | イ | ロ | ハ |
補足:ソルフェージュについて
楽譜を読むための「音名」とは別に、イヤートレーニング(音感を鍛える練習)などで音階を歌う際には「ソルフェージュ」という方法が用いられます。このソルフェージュでは、イタリア語の音名(ドレミファソラシド)で歌うのが一般的です。
ソルフェージュの詳しい原理や練習方法については、以下の記事で解説しています。
五線譜
五線譜とは、音の高さを楽譜上で視覚的に示すためのもので、5本の平行な横線と、その間の4つの空間で構成されます。線や空間が上にあるほど高い音を、下にあるほど低い音を表します。

線と間(かん): 5本の線は下から順に「第1線」「第2線」「第3線」「第4線」「第5線」と呼びます。同様に、4つの空間も下から「第1間」「第2間」「第3間」「第4間」と呼びます。
加線(かせん): 5本の線だけでは表しきれない、それより高い音や低い音を示す場合には、五線譜の上や下に短い横線を追加します。この線を「加線」と言います。

ただし、五線譜だけでは、どの線や間が具体的にどの高さの音(例えば「ド」や「ソ」など)を示しているのかが決まっていません。この基準を定めるために必要となるのが、音部記号です。
音部記号
音部記号とは、五線譜上の特定の線がどの音の高さを示すのかを定義する記号です。これにより、五線譜上の全ての音の高さが具体的に決まります。
ジャズの楽譜で主に使用されるのはト音記号とヘ音記号ですが、知識として「ハ音記号」についても触れておきます。
ト音記号
ト音記号は、五線譜の下から2番目の線を「ト音(ソの音、英語ではG)」と定めます。記号の渦巻きのような部分の中心が、このG音の位置を示しています。

別名「高音部記号」や「トレブルクリフ(Treble clef)」、「Gクリフ(G clef)」とも呼ばれます。主にギター、ピアノの右手部分の楽譜、ヴォーカル、サックス、トランペットなど、比較的中音域から高音域の楽器や声部で用いられます。
ヘ音記号
ヘ音記号は、五線譜の上から2番目の線を「ヘ音(ファの音、英語ではF)」と定めます。記号の始まりの点と、その右側にある2つの点が、このF音の線を挟むように書かれます。

別名「低音部記号」や「ベースクリフ(Bass clef)」、「Fクリフ(F clef)」とも呼ばれます。主にベース、ピアノの左手部分の楽譜、トロンボーン、チェロなど、低音域の楽器や声部で使われます。
ト音記号とヘ音記号の関係(ミドルC)
ト音記号とヘ音記号は、ピアノのように広い音域を持つ楽器の楽譜などで、上下に並べて(大譜表として)使われることがよくあります。この2つの音部記号で示される音の高さを繋ぐ重要な音が「ミドルC(中央のド)」です。
ミドルCは、ト音記号では五線譜の下に加線を1本引いた位置に、ヘ音記号では五線譜の上に加線を1本引いた位置に示されます。

このミドルCを基準にすることで、両方の記号で示される音の高さの関係性を正確に理解することができます。
ハ音記号
ハ音記号は、その記号の中心部分(2つのCを合わせたような形のくびれ部分)が「ハ音(ドの音、英語ではC)」であることを示す音部記号です。

この記号の大きな特徴は、五線譜上のどの線にも置くことができ、その置かれた線がC音になる点です。これにより、特定の楽器の音域に合わせて、加線をなるべく使わずに楽譜を読みやすくするために用いられます。
ジャズのリードシートでハ音記号が使われることはありませんが、クラシック音楽では、ハ音記号が五線譜上の置かれる位置によってその呼び名と役割が変わり、例えば第1線に置かれればソプラノ記号、第2線ならメゾソプラノ記号、第3線ならアルト記号、第4線ならテノール記号、第5線ならバリトン記号といった名称になります。

ハ音記号の存在を知っておくと、他のジャンルの音楽に触れた際にも役立ってくれるはずです。
調号
調号とは、音部記号の次に、五線譜の各段の最初に書かれる記号で、その曲がどの調(キー)に基づいているかを示します。
調号には**シャープ(#)とフラット(b)**の2種類があります。
- シャープ(#): 特定の音を半音高くする記号
- フラット(b): 特定の音を半音低くする記号
調号として五線譜の冒頭に書かれたこれらのシャープやフラットは、曲の途中で変更がない限り、楽譜上の該当する音のどのオクターブであっても効果が持続します。
シャープを使った調号
フラットを使った調号
調号から具体的なキーを判断する方法については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
臨時記号
臨時記号とは、調号の指示とは別に、個々の音符の音の高さ(音程)を一時的に半音単位で変化させるための記号です。以下の5種類があります。
表記 | 呼び方 | 効果 |
![]() | シャープ | 半音高くする |
![]() | フラット | 半音低くする |
![]() | ナチュラル | 元の音程に戻す |
![]() | ダブルシャープ | 1音(半音2つ分)高くする |
![]() | ダブルフラット | 1音(半音2つ分)低くする |
臨時記号の効力が及ぶ範囲
臨時記号の効力は、その記号が付けられた音から同じ小節の終わりまで、かつ同じ高さ(同じオクターブ)の音に対してのみ有効です。オクターブが異なる音や、次の小節の音には影響しません。
具体例で見てみましょう。

- 最初のA音にシャープがついているのでA#として演奏します。
- 2音目、同じ小節内の次に現れる、同じ高さのAの音も、同様にA#として演奏します
- 3音目、同じ小節内であってもオクターブ違うA音には、このシャープの効力は及びません
- 4音目、次の小節に移ると、前の小節のシャープの効力はリセットされるため、元の高さに戻ります。
ナチュラル(♮)の役割
例えば調号によって全てのA音がA#になっている曲で、ある部分だけ一時的にA#ではなく元のA音で演奏したい、といった場合にナチュラル(♮)記号を使います。ナチュラルは、その音に付けられているシャープやフラット(調号によるものも含む)の効力を一時的に打ち消し、元の音の高さに戻す役割があります。

このナチュラルの効力も、付けられた音から同じ小節内の同じ高さの音までです。
音の長さとリズムのキホン
楽譜から音の高さが読み取れるようになったら、次は音楽のもう一つの重要な要素、音の「長さ」と「リズム」について学んでいきましょう。一つ一つの音がどれくらいの時間演奏され、それらがどのように組み合わさって音楽の基本的な流れやノリ(グルーヴ)が生まれるのか。このセクションでは、その土台となる知識を解説していきます。
音符と休符の長さ
それぞれの音をどれくらいの長さで演奏するかを表すのが音符で、どれくらいの長さ休むかを表すのが休符です。
音符や休符が示す時間の長さは相対的なもので、最も基本的な長さを持つ全音符の長さを「1」とした場合に、他の音符や休符がその何分の一の長さに相当するかで表されます。
以下が、主な音符と休符の種類、そして全音符を「1」とした場合の長さの比率です。
音符の書き方 | 休符の書き方 | 長さ |
全音符![]() | 全休符![]() | 1 |
2分音符![]() | 2分休符![]() | 2分の1 |
4分音符![]() | 4分休符![]() | 4分の1 |
8分音符![]() | 8分休符![]() | 8分の1 |
16分音符![]() | 16分休符![]() | 16分の1 |
上記以外に、さらに短い32分音符・休符、64分音符・休符などもありますが、まずは基本的なものを覚えましょう。
これらの音符と休符の長さの比率を正確に把握することが、楽譜からリズムを正しく読み取り、演奏するための第一歩となります。
付点音符と付点休符
付点とは、音符や休符の右横に付けられる小さな点のことで、元の音符(または休符)の長さを変化させる記号です。付点が付くと、その音符(または休符)は元の長さの1.5倍になります。これは、元の長さに、その半分の長さを加えるのと同じです。
例えば、付点4分音符であれば「4分音符の長さ + 8分音符の長さ」となります。
以下が、主な付点音符と付点休符の例と、それらが示す長さです。
付点音符の書き方 | 付点休符の書き方 | 長さ |
付点全音符![]() | 付点全休符![]() | 全音符+2分音符 |
付点2分音符![]() | 付点2分休符![]() | 2分音符+4分音符 |
付点4分音符![]() | 付点4分休符![]() | 4分音符+8分音符 |
付点8分音符![]() | 付点8分休符![]() | 8分音符+16分音符 |
付点16分音符![]() | 付点16分休符![]() | 16分音符+32分音符 |
補足:複付点について
まれに、音符や休符に点が2つ付く「複付点」というものもあります。1つ目の点は元の長さの半分を加え、2つ目の点はさらにその半分を加えます。結果として、元の長さの1.75倍になります。
例えば、複付点4分音符は「4分音符 + 8分音符 + 16分音符」の長さになります。
複付点4分音符

複付点4分休符

ただし、複付点音符や複付点休符は楽譜が複雑になり読みづらくなるため、実際の楽譜で頻繁に使われるわけではありません。
音符の連結(連桁)
8分音符や16分音符のように、音符の棒である符幹に符尾(はた)が付いている音符が2つ以上連続する場合、これらの符尾を太い線でつなげて書くことがあります。これを音符の連結、または連桁と呼びます。

連桁を使うと、リズムが視覚的に整理され、まとまりや拍が分かりやすくなります。
8分音符と16分音符の組み合わせ
元のリズム | つなげた書き方 |
![]() | ![]() |
![]() | ![]() |
![]() | ![]() |
![]() | ![]() |
![]() | ![]() |
左側の符尾がバラバラの表記と、右側の連桁でつなげた表記を見比べてみてください。同じリズムを表していても、連桁を用いることで音符がグループ化され、拍の感じ方やリズムのパターンがより視覚的に捉えやすくなっているのが分かります。
重要な注意点
楽譜のスタイルや出版社の慣習、あるいは手書きの譜面などによっては、同じリズムパターンでも連桁を使用せずに、各音符の符尾をそのまま個別に記譜することもあります。 どちらの記譜方法で書かれていても、それぞれの音価(8分音符なのか16分音符なのか等)を正確に判断し、同じリズムとして読み取れるように慣れておくことが大切です。
拍子記号
拍子記号とは、楽譜の冒頭(通常は調号の直後)に分数のような形で記され、その音楽のリズムの骨格を示す重要な記号です。 下の数字(分母)が基準となる音符の種類を、上の数字(分子)が1小節にその音符がいくつ入るかを表します。
4分の4拍子
最もよく目にする拍子記号の一つが「4分の4拍子」です。

これは、4分音符を1拍として、1小節に4拍入ることを意味します。ポピュラー音楽やクラシック音楽など、非常に多くの楽曲で用いられています。 4分の4拍子はよく使われるため、「Common Time(コモンタイム)」とも呼ばれ、その頭文字を取って下記のような「C」という記号で代用されることもあります。

音符を入れた4小節の例

付点音符を含めた4小節の例

小節と小節線
拍子記号によって定められた一定の拍のまとまりを「小節」と呼びます。楽譜上では「小節線」という縦線で区切られます。 小節線があることで、拍子が視覚的に分かりやすくなり、楽譜が格段に読みやすくなります。もし小節線がなければ、どこが拍の区切りなのか判断しづらくなってしまいます。
小節線の無い楽譜例

4分の3拍子

4分音符を1拍として、1小節に3拍入ることを示します。「ワルツ」のリズムとして有名です。
音符を入れた4小節の例

8分の6拍子

8分音符を1拍として、1小節に6拍入ることを示します。この拍子は、大きく2つのグループ(8分音符3つ+8分音符3つ)として感じられることが多い複合拍子の一種です。 ジャズ特有のリズムであるスウィングと関連が深く、この拍子の感覚を掴むことはジャズを理解する上でとても大切です。
スウィングリズムについては、別記事「[ジャズ特有のリズム、スウィングを習得するための考え方]」で詳しく解説しています。
音符を入れた4小節の例

4分の5拍子

4分音符を1拍として、1小節に5拍入ることを示します。一般的な4拍子や3拍子とは異なるため「変拍子」の一つに分類されます。 この拍子で最も有名な曲の一つが、デイヴ・ブルーベックの「Take Five」です。まずはこの曲を聴いて5拍子の感覚に慣れてみるのもおすすめです。ジャズでは、既存の4拍子の曲をあえて4分の5拍子にアレンジして演奏することもあります。
音符を入れた4小節の例

ここまで紹介した4つの拍子(4分の4、4分の3、8分の6、4分の5)がジャズやポピュラー音楽でも比較的よく使われますが、その他にも様々な拍子記号が存在します。
例えば、4分の7拍子、2分の2拍子(これは「Alla Breve(アラ・ブレーヴェ)」とも呼ばれ、ボサノヴァの基本リズムなどで見られます)などがあります。 まずは、今回紹介した基本的な拍子にしっかりと慣れることから始めましょう。
連符
連符は1拍や複数の拍といった特定の時間の長さを、その拍子で通常分割される数とは異なる数で均等に分割して演奏するための音符のグループです。例えば、通常2つに分けられる長さを3つの音符で演奏したり、逆に通常3つに分けられる長さを2つや4つの音符で演奏したりします。
連符であることを示すために、音符のグループの上(または下)に分割する数を示す数字(例:3、4、5など)が記され、多くの場合、それらの音符は角括弧(特に休符を含む場合など)でまとめられます。
ここでは代表的な連符をいくつか見ていきましょう。
半拍3連符

これは、8分音符1つ分の長さを、3つの等しい長さの音符で演奏することを意味します。結果として、それぞれの音符は通常の16分音符よりもわずかに長い、独特のリズム感を生み出します。
1拍3連

これは、4分音符1つ分の長さを、3つの等しい長さの音符で演奏することを意味します。このリズムは、ブルースで特徴的な、弾むようなリズム(シャッフル・フィール)を生み出す基本となります。
2拍3連

これは、2拍分を、3つの等しい長さの音符で演奏することを意味します。それぞれの音符は、4分音符よりも少し短いですが、全体としてゆったりとした3つの均等な区切りで2拍を感じるリズムです。
作り方のヒント:4分音符2つ分の長さを3連符として捉え、その音符を1つおきに弾くと2拍3連になります。

3拍4連

これは、3拍分(例えば4分の4拍子における4分音符3つ分の長さ)を、4つの等しい長さの音符で演奏することを意味します。結果として、それぞれの音符は4分音符よりも少し短いですが、3拍の中に均等に4つの音が配置される独特のリズム感が生まれます。
作り方のヒント:16分音符を応用して作ります。3拍分の4分音符を16分音符にして、2つおきに弾くと3拍4連になります。

4拍5連

これは、4拍分(例えば4分の4拍子における4分音符4つ分の長さ)を、5つの等しい長さの音符で演奏することを意味します。少し複雑に感じられるかもしれませんが、滑らかで独特の流れるようなリズム感を生み出します。
作り方のヒント: 4分音符を5連符に分け、1つおきに弾くと2拍5連符が出来上がります。


さらにその2拍5連を1つおきに弾くと4拍5連が出来上がります。

連符を理解することは、表現豊かに演奏するための大切なステップです。
初めは複雑に感じるかもしれませんが、メトロノームに合わせてゆっくり練習をしたり、実際の楽曲の中で連符がどう使われ、どんな効果を生んでいるのかを聴くことで、徐々にその感覚が身についてくるはずです。
様々な連符に挑戦して、音楽の世界をさらに広げていきましょう!
楽譜をスムーズに読むために
楽譜の基本的な音符や記号が読めるようになり、音の高さや長さ、リズムの基礎が理解できたら、次はいよいよ曲全体をよりスムーズに、そして音楽的に読み解くためのステップです。
このセクションでは、単に音を追うだけでなく、楽譜に記された演奏の速さの指示(テンポ)や、曲の構成を示す区切り(リハーサルマークなど)、といった、楽曲全体の流れや構造を的確に捉えるための重要な記号や約束事について紹介します。
これらの知識を身につけることで、楽譜がさらに分かりやすい「音楽の設計図」となり、迷うことなく演奏に集中できるようになるでしょう。
テンポ表記
テンポ表記とは、楽曲をどのくらいの速さ(テンポ)で演奏するかを指示する記号や用語のことです。通常、楽譜の冒頭や曲調が変わる部分に記されます。これにより、作曲者や編曲者が意図する音楽の基本的な速さが演奏者に伝わります。
ジャズの楽譜でよく用いられるテンポの示し方を見ていきましょう。
メトロノーム記号 (音符 = 数字 [BPM])
最も一般的で正確なテンポ表記は、特定の音符と数字を「=」で結んだメトロノーム記号です。これは、その音符を1拍と考えた場合に、1分間にその拍を何回刻む速さであるかを示します。
この数字は、BPM(Beats Per Minute:1分間あたりの拍数)という単位の数値と同じ意味を持ちます。 例えば「BPM = 120」とあれば、1分間に120回拍を打つ速さということで、時計の秒針の速さ(BPM60)のちょうど2倍の速さになります。
4分音符を基準にする場合

「4分音符=120 (BPM)」のように書かれていれば、4分音符を1拍として1分間に120回打つ速さで演奏します。4分の4拍子や4分の3拍子、4分の5拍子など、4分音符が拍の基本的な単位となる曲で一般的に用いられます。
8分音符を基準にする場合

8分の6拍子や8分の12拍子など、8分音符が拍の基本的な単位となる(または細かく感じてほしい)曲では、「8分音符=120 (BPM)」のように8分音符を基準にテンポが示されることがあります。
付点4分音符を基準にした書き方

8分の6拍子のような複合拍子を、より大きな2つの拍(1拍=8分音符3つ分)として感じてほしい場合には、「付点4分音符=40 (BPM)」のように付点4分音符を基準にすることがあります。
これは「8分音符=120 (BPM)」と同じ演奏速度ですが、拍の感じ方や捉え方が異なります。
速度標語(イタリア語や英語など)
メトロノーム記号による数値での正確なテンポ指示の他に、演奏の雰囲気や大まかな速さを示すために、言葉による「速度標語」が用いられることもあります。
クラシック音楽では伝統的にイタリア語(例:Andante アンダンテ – 歩くような速さで, Allegro アレグロ – 速く)が使われますが、ジャズの楽譜では以下のような英語表記や、ジャズ特有の指示がよく見られます。
- Slow Ballad (スロー・バラード:ゆったりとしたバラードで)
- Medium Swing (ミディアム・スウィング:中くらいの速さのスウィングで)
- Fast (ファスト:速く)
- Up Tempo (アップ・テンポ:非常に速いテンポで)
- Even 8ths / Straight 8ths (イーヴン・エイス/ストレート・エイス:8分音符を均等に、スウィングさせずに)
- Latin (ラテン:ラテンのリズムで)
- Bossa(ボサ:Bossa Nova(ボサノヴァ)とも。ブラジル起源の、独特のシンコペーションを持ったリズムで)
これらの速度標語は、数値だけでは伝わらない曲のニュアンスやリズムのフィールを演奏者に伝える大切な役割も持っています。
リハーサルマーク
リハーサルマークとは、楽譜上の特定の箇所や楽曲のセクションの区切りを明確に示すために記される記号や文字(例:[A]
、[B]
、[INTRO.]
など)のことです。
特にバンドでのリハーサル中、「Aセクションの頭からもう一度」「次はサビの[C]から」といったように、曲の特定の部分をメンバー全員で素早く共有するのに役立ちます。
ジャズのリードシートでは頻繁に用いられ、スムーズな進行に不可欠な「道しるべ」と言えるでしょう。
リハーサルマークの有無による楽譜の比較
リハーサルマークがあると、楽譜がどれほど読みやすくなるでしょうか。以下の例を見比べてみてください。
リハーサルマークがない楽譜

リハーサルマークがある楽譜

上の例のように、リハーサルマークがあることで、曲の構成(例:イントロ、Aメロ、Bメロ)が一目で把握でき、曲全体の流れをスムーズに追えます。
リハーサルマークの一般的な付け方と例
リハーサルマークの付け方に絶対的なルールはありませんが、ジャズのリードシートでは以下のような方法で記されます。
- イントロ、エンディングの表記: 曲の導入部分には
[INTRO.]
、エンディング(アウトロ)部分には[ENDING]
や[OUTRO.]
などが使われます。 - セクションごとのアルファベット: 楽曲の主要なセクション(ヴァース、コーラス、ブリッジ、ソロセクションなど)の冒頭に、角括弧で囲んだアルファベット(例:
[A]
,[B]
,[C]
…)を順番に振っていきます。 - 繰り返しや変化のあるセクションの表記: 同じメロディやコード進行のセクションが繰り返される場合や、一部に変化がある場合には、プライム記号(’)や数字を使って区別します。 例:最初のAセクションを
[A]
とした場合、2回目のAセクションは[A’]
、[A2]
(または[2A]
)のように表記されることがあります。 - その他の記号や言葉: 特定のフレーズや間奏部分を示すために
[Inter.]
(インタールード)、[Solo Section]
(ソロ・セクション)、[Vamp]
(ヴァンプ:短いフレーズの繰り返し)といった言葉が使われることもあります。また、小節番号そのものを丸や四角で囲んでリハーサルマークとして代用する場合もあります。
リハーサルマークを意識して楽譜を追いかけ、曲全体の構成や展開を掴む習慣をつけることで、単に音符を読むだけでなく、楽曲の流れをスムーズに感じ取れるようになるはずです。
コードネーム
コードネームとは、楽譜上でメロディと共に記され、その箇所で鳴らす和音(コード)の種類や構成音を、アルファベット、数字、記号を使って簡潔に示したものです。
特にジャズのリードシートにおいては、メロディとコードネームが楽曲を構成する最も主要な情報となります。これらを読み解くことで、曲のハーモニー構造を理解し、楽譜からより豊かな情報を引き出すことができます。

ジャズ演奏におけるコードネームの重要性
ジャズミュージシャンは、コードネームを瞬時に解釈し、そのコードで使えるスケールやテンションノートを用いて、アドリブを創造していきます。そのため、コードネームを正確に読み取り理解する能力は、ジャズを深く楽しむため、そして演奏するために必須のスキルと言えます。
コードネーム表記の多様性
ただし、ここで注意しておきたいのは、コードネームの表記方法には世界共通の厳密な統一ルールが存在しないという点です。同じ種類のコードであっても、楽譜の出版社、採譜者、あるいはミュージシャンによって、その表記が異なる場合があります。
例えば、マイナーコードを示す際に「Cm」と書かれることもあれば、「C-」や「Cmin」と書かれることもあります。メジャーコードでも「CM7」と「CMaj7」のような違いもあります。 このように表記にバリエーションがあるため、様々な書き方に慣れ、どの表記を見ても同じコードとして正しく認識できるようにしておくことが大切です。
コードネームの詳しい読み方・種類について
具体的なコードの種類(メジャー、マイナー、セブンスなど)、それぞれの代表的な表記、構成音、jazzguitarstyle.comで使っている表記などをまとめたので参考にしてみてください。
ジャズの楽譜を読み書きする
ここまで、ジャズのリードシートをはじめとする楽譜を読むための基本的な知識を一通り学んできました。これらの知識は、楽譜を読み解き、そこに込められた作曲者や編曲者の意図を理解するための大切な鍵となります。
これらの知識を活かして、さらに音楽理解を深め、ジャズをより楽しむためのステップについて考えていきましょう。
1. ジャズの楽譜を「読む」習慣をつけよう
楽譜の知識を深め、実践的な読譜力を養うために最も大切なことは、実際に多くのリードシートに触れることです。 今回学んだ知識を総動員して、メロディラインを追い、コード進行を理解し、曲全体の構成を把握する練習をしてみましょう。
最初は時間がかかっても、繰り返し楽譜を読むことで、徐々に楽譜から音楽が聴こえるようになってくるはずです。
jazzguitarstyle.comでは、パブリックドメインとなったスタンダード曲のリードシートを公開しているので、音源と照らし合わせながら読み解いてみてください。
2. 楽譜を「書く」ことにも挑戦してみよう
楽譜を読む力と同時に、自分で楽譜を「書く」ことにも挑戦してみると、音楽への理解は飛躍的に深まります。
好きな曲のメロディを聴き取って音符にしてみる(採譜)、簡単なコード進行を付けてみる、あるいは自分だけのオリジナル曲のアイデアを楽譜に起こしてみるのも素晴らしい練習です。
楽譜を書くことで、音の高さや長さ、リズム、コードといった音楽の要素がどのように組み合わさって楽曲が成り立っているのかを、より具体的に、そして能動的に学ぶことができます。
リードシートがどのように作られていくのか、その具体的な手順については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
3. 楽譜と共に、ジャズをもっと深く楽しむために
楽譜を読む力、そして書く力を養うと、二つの大きな力が手に入ります。 一つは、まだ聴いたことのない曲でも、楽譜だけを見てその音楽を頭の中でイメージできる力。そしてもう一つは、楽譜になっていない音楽(例えば、ふと浮かんだメロディや、アドリブフレーズなど)を自分で楽譜に記録し、形に残すことができる力です。
この記事で得た知識を活かし、たくさんの楽譜に触れ、読み書きし、そして演奏する経験を重ねていってください。きっとジャズがより楽しくなってくるはずです。